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実務紹介

 リスクマネージメントとはこんなものです.

リスクマネージメント理論の概略

 リスクマネージメントとは,概略下記のような事を考えてリスクをmanage(≒扱う?)する事を言います.

できるだけ具体例を入れながら,各項目に沿って述べてみましょう.

リスクの発見

 一番大切な事です.

 例えば,火災のリスクについてを考えてみましょう.よくある例ですが,昔からの商店街には,戦前からの古い建物で商売をしておられる所があります.或いは八百屋さんや魚屋さんなどではほとんど軒先だけで商売をしておられる所もあります.このような場合,もし火災事故にあったとしてそのお店をもと通りにすることが大事なのでしょうか.建物の焼失による物理的な損害よりも,復旧までの売上げがストップする(business interruption)経済的損害の方が大きい場合の方が一般的です.更にこのbusiness interruptionという問題は,単に収入が一定期間途絶するという損害にとどまりません.顧客,或いは市場の喪失を伴います.それまで毎日買い物に来てくれていたお客さんは,火事にあったからといって野菜や肉を買わないで生活なさるでしょうか? そんなことはありません.何処か他の八百屋さんや肉屋さんへ行って買い物をするでしょう.そしてその店が思ったよりも親切であったとか,品物が新鮮だったとかすればどうなるでしょう? このように,再開当初のセール期間を除き,一般的にはもとの売上げに戻るには相当の時間を要しますし,場合によっては戻らないことも少なくありません.

 火災による損害のうち,business interruptionに限ればメーカーにおいて問題はずっと深刻です.通常一般的な工場で,一から建て直して機械を入れて操業を再開するまでに最低でも4〜6ヶ月ぐらいはかかります.その間お得意先は製品の納入を待ってくれるでしょうか? そんなことはあり得ません.どこかの同業他社を探して,同じ製品を作って納入するように依頼するでしょう.もし在庫が少なければ割り増しを払ってでも頼まなければなりません.お得意先がそのようにしてつくられた発注先を4〜6ヶ月後に,工場が再開したからと言って直ちに元へ戻してくれるとは限りません.大手企業の下請けの場合であれば,ただでさえリストラの為に下請けの集約化を進めていますので,良い口実にされて取引そのものが無くなることもあり得ます.

 これらの事はごく当たり前のことを私達に再認識させてくれます.即ち商店は商品を提供する事により,メーカーは製品を供給する事により存在価値があるのだという事です.この存在価値を喪失したままでどれくらい耐えられ,かつ顧客を再び呼び戻せるかという事です.しかも,操業の中断中にも給与は払い続けねばなりません.

 以上は火災というリスクについての経営の面からの考察のほんの一例です.

 次はもう少しphysicalな面からのリスクについての考察の例を出してみましょう.例えば,プラスチック工場(日本語で言えば樹脂成型)では可塑剤を常用しています.この可塑剤が酢酸系のものであった場合,その可塑剤の性質(常温での気化性や蒸発性etc)や使用環境によっては長い年月の間に電線の被覆を少しづつ溶かして,その結果ある日ショートを起こし,突然工場全体が停電,ストップ・・・原因不明の大騒ぎということもあり得ます.

 最近であれば,郊外に工場を新設ということはよくありますが,この場合ノネズミが大きな問題になります.今やF.A.(Factory Automation)は常識ですがこの情報ネットのケーブルがノネズミにかじられてダウンということもあります.

 アメリカの実例を一つ.ある電機メーカーがある地方に工場を新設する計画を作りました.用地や規模や機械や何やかやを検討して計画案を作り上げました.その案がリスクマネージャーの所に廻ってきて,検討された結果“NO!”のコメントがつき廃案になりました.理由は「この計画が想定されている地区の通勤可能な範囲で得られる労働力の質には問題があり,安定した出勤は期待できず,従って予定の操業率を維持するのは困難だろう.」とのことでした.

 ついでにもう一つ.今やどこの企業でもリースというのはごく一般的に利用されています.さてこのリースで導入された機械に事故があった場合どうなるでしょうか? 通常はリース会社が動産総合保険というのをかけています.従って保険会社はリース会社にその機械についての保険金を支払います.ところでこの保険会社は機械を使っていた企業とは何の契約関係にもありません.もし機械の事故の原因が,使っていた企業の責任に帰すべき事であった場合,保険会社から損害賠償請求を受けることがあります.高額な機械ほどリースにする事が多いのですが,こういうリスクがあることを承知している経営者はまだ多くはないようです.

 以上の例のように,何かについてどういうリスクがあるかを洗い出すことを“リスクの発見”といいます.この段階で見落としがあれば当然対策も講じられないので,リスクはむき出しのままと言うことになります.

 リスクマネージメントが保険会社の問題ではないというのは,この“リスクの発見”の段階で自社の保険を通してしかリスクを見れないことが多いからです.企業の責任者において問題なのは常にリスクであって,あとで述べるように保険はその対策の一部にすぎないのです.

リスクの測定

 “リスクの発見”で洗い出されたリスクについて,それを金額的に置換する作業を言います.

 上の工場の火災の例で言えば,だいたい次のような事柄について,先方の社長とディスカッションし金額を見積もっていきます.

■ 工場を新しく建て直すにはいくらぐらいかかるか?
■ 工場を新しく建て直すには打ち合わせ,設計を含めてどれぐらいの期間を要するか?
■ その間にも必要とされる固定的費用はどれぐらいか?
人件費は?
銀行に払う返済は? 金利は?
リース会社に払うリース料は?
雑誌に載せている広告費は?
・・・・・・・ ?
(通常は直近の決算書を参考に試算します)
■ 火災事故に伴う直接的な臨時の費用はどれぐらいか?
近隣へのお詫びに・・
お見舞いに対するお礼は?
       ・・・etc.
■ 事故から工場再開に至るまでに必要とされる臨時的な費用はどれぐらいか?
臨時の仮工場を借りる費用は?
臨時の仮倉庫を借りる費用は?
機械メーカーに最優先で作らし納入させるのに必要な割り増しは?
建設を突貫作業でやってもらうための割り増しは?
受注分で,同業他社に造って貰うための費用は?
工場復旧から正式再開までの試運転,試作の費用は? 材料費は?
工場再開の案内状は?
       ・・・etc.
■ 工場再開から元の売上げ(正確には利益)に回復するのにどれぐらいの期間を要するか?
■ その間の赤字を含む利益の減少額はどれぐらいか?

 このときに過小な評価をすれば,元も子も無くなってしまいます.

 このような作業をしながら,リスクを次のように分類してその対策を考えます.

A. 滅多に起きないし,起きても損害の軽微なリスク
この種のリスクは通常放置,もしくは保有します.
B. 滅多に起きないが,起きれば大きな被害や損害が発生するリスク
火災や爆発,或いは飛行機の墜落,船舶の沈没 etc.
真剣に考えて方針を決めねばなりません.保険は単なるその手段の一つです.(後述)
C. しばしば発生するが損害は小さなリスク
飲食店における食器の破損,何百台という大きな数の自動車を保有する企業の車両自体の故障や破損など 通常この種のリスクは企業のランニングコストとして組み込まれ,そのコストダウンに工夫をこらします.
D. しばしば発生し,その被害や損害も大きいリスク
一般的にこの種のリスクは回避すべきものです.もっともやっかいなリスクであるが故に,もし克服できればチャンスもあるかも知れません.正しい例かどうか自信はありませんが人工衛星の打ち上げをビジネスにしようとしているのなどはこの範疇に入るかも知れません.

リスクの処理方法の選択

 学者さん用語をそのまま使って表現すると概ね下記のような処理方法があります.現実にはこれらの方法を色々検討の上,状況に応じて変えたり組み合わせたりしながらリスクを処理していきます.

1.リスクの制御
  1. リスクの回避: 文字通り避けること
    • ガス爆発が怖いので熱源を電気にする
    • 自動車事故を避けるため,自動車に乗らない
  2. 損害の防止: 回避はしないが事故が発生しにくいようにする
    • 燃えないように耐火構造にする/不燃材を使う
    • 建物の間を広くする
  3. 損害の軽減: 事故が発生した場合に損害が大きくならないようにする
    • スプリンクラーをつける
    • 消火器を備える
  4. リスクの組み合わせ・分離: 異なるリスクを組み合わせたり同種のリスクを分離したりする
    • 異業種間の合併や,経営の多角化など
    • 工場の分散化,コンピューターセンターの分離
  5. リスクの(保険以外の)移転・・・危険を他者に転嫁する事
    • 責任も全部もつことを条件に下請けに出す
    • 賠償請求しないことを条件に手術をする
2.危険財務
  1. リスクの保有
    • 積極的保有
      リスクを正確に認知した上で保有する
      貸倒引当金を積んだり,価格変動準備金を積んだりというのはリスクを認知した上での備えと言えます
    • 消極的保有
      リスクを全く認知しないか一部しか認知せずに,リスクを保有する
      保険のつけ足りない場合などはこの例になります
  2. リスクの転嫁
    • 保 険
    • 共 済
    • 保 証

 現実の実社会における個人や企業の活動は多岐に渉っており,上記のような概念や方法論が判っていても,どういうリスクのどこから手を着けていいか判りません.

 それで一般的には,リスクを次のように分けて検討してゆきます.一応企業を例にして述べますが個人の生活においても,ほぼ同じ考え方で検討します.

人に関するリスク
 社長や会長,役員,管理職,一般従業員さらにはパートの人やアルバイト,必要であれば下請けの会社の人も含みます.またそれらの人の家族も含めて考える必要のある場合もあります.

 これらの人の様々な原因による“傷老病死”について経営にどんな影響があるかを検討します.ごく単純に考えても“死亡退職金”は支払わねばなりません.またその会社の中枢部門の特殊能力者,例えば有名なデザイナーとか看板の設計者だとかいった場合には相当深刻な影響を考えねばなりません.

 我が国では近年にわかに検討されるようになってきましたが,早くから世界をまたに活動するいわゆる"world enterprise"(国際企業)がたくさんある欧米では営利誘拐は早くからリスクとして認知されその保険もごくポピュラーなものです.  オーナー企業では相続に伴う資金繰りの事も考慮されねばならないことが一般的です.

物に関するリスク
 もう少し大きく“資産”という捉え方の方が的確かも知れません.本社や工場,寮・社宅,或いは保養所等の不動産,事務機や機械・設備・工具,さらには商品や原材料その中間の仕掛品,場合によっては委託加工に下請けに出している物もあるでしょう.こういったものの場合は輸送中なども考慮しなければなりません.また包装用の紙や化粧箱や段ボールなどの資材,日常使う事務用品等の消耗品,立派な会社では応接間や役員室等におかれている書画・骨董品などの高価な貴重品・・・等々これも大変多岐にわたります.

 ところでお医者さんのカルテはただの紙切れですが現在使用中のものは“カルテ”として紙代何円という評価で充分でしょうか? 治療費や診療費を請求するための明細がそこには記載されています.カルテが無くなると誰にいくら掛かりいくら請求してよいのかわからなくなります.そうするとお医者さんの使用中のカルテというものは治療費請求のもとになっており,単に紙としての“用紙代”だけではないということが判ります.

 このように最近では目には見えない“情報”というものに関する考察も要求される時代になってきております.「知的財産権」についてもこの延長上の問題として考えねばなりません.

お金に関するリスク
物的資産のうち現金や小切手などの有価証券は

  • それ自体で使える(流通する)
  • 簡単に持ち運べる

などの理由で,別個に検討します.

 当社では最近は,何らかの理由による操業/営業中断に伴う臨時の費用の出費や収入の途絶もこの範疇に含めて検討するようにしております.

責任に関するリスク
企業が活動するに伴い様々な責任に関するリスクが伴います.

  • 社員を安全に仕事に従事させる責任
  • 安全な商品・製品・サービスを提供する責任
  • 作業や工事を第三者に迷惑を及ぼさないように安全に実施する責任
  • 借り物や預かり物(受託加工品など)をきちんと管理する責任
  • 工場・事務所・商店などの施設を安全に維持・管理する責任
  • 会社や株主に不注意に損害を与えない責任
  • 排水・排気・排煙・廃棄物などで環境を汚染させない責任・・・等々

 実にたくさんの責任を負って企業は活動しております.これらの責任をきちんと全うしなければいわゆる損害賠償請求を受けることになります.またこの種の社会的な責任というものは,時代とともに変化しており基本的にはますます重く,厳しくなってきております.そういう意味では企業をめぐる社会的な動向にはある程度敏感でなければなりません.

 実務上では,この種のリスクを考えるときに金額的にはどれぐらいの備えをすべきかの設定が難しい場合があります.というのはこのリスクは他者から請求をされて初めて水面上に姿を現すリスクであり,事前にこちらで決められるたぐいのものではないからです.

車両に関するリスク
 自動車はそれ自体が資産であり,運転する人間を考えれば人に関するリスクがあり,事故のことを想定すれば責任のリスクもありというなかなかやっかいなものではあります.しかしモータリゼーションの発展に伴い道路交通法が制定され,ここでは人身事故について“無過失責任主義”が採用され,また自動車損害賠償保障法(自賠法)が制定され更に民間の任意の自動車保険も整備されるなど,車両に関するリスクはそれなりに一つの体系が出来上がっているので,ひとまとめにして考えます.

 いかがでしたか?

 当社の業務の根幹をなすところなので,大急ぎではありますが判って貰いやすいように工夫しながら一通り述べてみました.私達は学者ではありませんので,日常業務においてこんなにややこしいことをいつもいつも考えながらの仕事ばかりではありませんが,全く新規の企業からの引き合いがあった時や,工場の新設や移転などきちんとリスクを見直さねばならない時には概ねこういう考え方に沿った分析や検討を行います.また実際に行ってきたからこそ,保険会社との競争にも勝ち残ってきました.ここまでお読みいただいた方には,問題はリスクであって,保険はその結果の一部にすぎないこと,自社の保険を売らねばならない保険会社にとってリスクマネージメントはそぐわないことが多いことなどがある程度はご理解頂けたと思います.また当社がコンサルティングを主体にした知識集約型の“知的サービス業”と自負している理由も少しは判って頂けたのではないかと思います.


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